Signature Product = LOGAN atelierのトレードマークとして、自信を持って皆さんにお届けできるデザイン家具をご紹介していく特集。vol.2は、現在海外でも注目され、セカンドブーム到来のActive Sitting(アクティブシッティング)を北欧らしくアレンジした、ミニマルデザインの『Muista Chair(ムイスタチェア)』です。
バランスボールにはじまり、あまりデザイン性を求められてこなかった分野に飛び込み、見事に機能性とデザイン性を両立させ、自宅でもオフィスでも気軽にお洒落に使えるデザインを開発したその背景など、デザイナーでありMuistaの創業者であるAurimas Lažinskasさんにお話を伺いました。
——突然なのですが、日本製品についてはなにか特別な印象をお持ちでしょうか。
私は普段、自分のアイデアでお腹いっぱいなので他の人のデザインを見る事はあまりないのです。ただそんな中でも日本の製品についての私の印象は、ミニマル、職人、かわいい、サイエンスフィクションでしょうか。また、日本人は遊び心を大切にしていると思います。 そして、彼らにとっての「贅沢」は煌びやかなものではなく、熟練とか精通といった職人気質に対して持っているものなのだと理解しています。
あぁ、それと忘れてはならないのがお寿司ですね。世界一美味しい食べものです(笑)。
——食とアニメ。日本の誇る二大文化をきっかけに日本に興味を持ってくださる方が沢山いらっしゃるのは日本人としても嬉しいことですね。普段モノづくりをする上で軸にされているコンセプトとかはありますか?
サプライズは好きですね。必ずしも実用的な方法でなくても良いのですが、なにかこう、新鮮で新しいコミュニケーションが生まれるようなことは常にしていきたいと考えています。
——なるほど。Aurimasさんは普段どういったところからデザインインスピレーションを得られているのでしょうか?
私の場合、主に読書による本からのインスピレーションになるのではないかなと思います。特定の分野に絞ることなく、幅広い分野の本を読むのが好きですね。それと旅行もそうですし、あとは長い距離を歩く事でしょうか。直接的なインスピレーションではないかもしれませんが、距離を歩いていると頭のなかで色々なことが消化されて気が付いた時には整理されていることありませんか?あの感覚は心地よくて好きです。
——とても良く分かります。一日中ひたすら一つのソリューションを求めて考えて考えて考えて、、で結局何も浮かばなくて寝ようと布団に入ると突然浮かんでくるあの現象に似ていますよね。
凄い分かります。やっぱり力まずに脳がリラックスした状態が理想的なんでしょうね。
——それでは今回Signature Productに選ばれました『Muista Chair』について。先ずはデザインコンセプトを教えていただけますか。
現代に生きる皆さんが椅子に座りすぎている状況は言わずもがな周知の通りかと思いますが、一般的な椅子に座ることは長時間の不活動(要するに運動不足)に寄与するため、ある種、敵視されていたりもしますよね。
そんな時に、IFLscience.comの「貧乏ゆすりをすることで長時間座って過ごした際の悪影響を帳消しに出来るかもしれない」という記事を読みました。そこで例え微小な動きであっても座っている間に運動を行う事で健康を維持する事が出来るのだという事実を知って、Muista Chairのコンセプトは、このすぐ後に頭に浮かんできました。このバツが悪い椅子との関係性を見直す時期に来ているのではないかと思います。そろそろ椅子も次の段階へと進んでもよいのではないかと。新しい時代の椅子は、色々な動きを可能にして何かしらの理学療法的なツールになるべきなのではないでしょうか。
Muista Chairの開発には4年かかりました。ただただひたすらプロトタイプを作り、理学療法士の先生にアドバイスを求める日々でした。そして遂に座り時間を活性化する可能性の非常に良い組み合わせを発見したのです。Muista Chairは向きを置き換えることで2通りの座り方ができ、またそれに伴って前後、もしくは左右への運動が可能となります。これにより、運動とバランス感覚の強化そして背筋運動ができるようになります。
最終的には造形としてもミニマルで美しく仕上がったことは大変満足しています。ただ当初から意図してここに至ったわけではなく、ある種の偶然ですね。ただひたすらに不必要なディテールを取り除き、色々な素材を試してみたりとした結果が現在のMuista Chairなのです。お見せするのも恥ずかしいのですが、当初は随分と酷かったですね(笑)
——因みに、なぜ『Muista』という作品名なのでしょうか。
名前をリトアニア語にしたかったのです。リトアニアがどのような国で、どこにあるのか。世界中の方々がリトアニアを知るきっかけになれば良いと思っています。リトアニア語の文字は、いくつかの例外を除いて、書かれている単語をそのまま読むことで発音が出来ます。例えば、英語の場合、「I」は「AI(アイ)」と読みますが、リトアニア語では「AI」と書き、そのまま発音します。
設計開発段階の間、私はこの椅子をKėdulėと呼んでいました。これは、リトアニア語で奇妙な小形の椅子を意味します。しかし、後にMuistaという新しい名前が頭に浮かんできたのです。リトアニアの人たちからしてもすぐに意味が分からないかもしれませんが、語源はリトアニア語のMuistytis(そわそわ、もじもじの意)になります。
これは後になって知ったことですが、Muistaは、フィンランド語で記憶に残るという意味があるそうです。この話を聞いてまますますこの名前が好きになりましたよ。ただ一方で、今度はルーマニアの友人から、Muistaはとても不快な意味を持っていると聞きました。ただもうこうなてくるとどんな名前にしてもどこかの言語で良くない意味を持っていそうな気がして笑。なので最初の印象を信じてMuistaとしています。
——『Muista』の開発秘話をお聞かせ願えますか。色・形状、こだわりポイントやどのようにしてここに至ったかなど。
私自身落ち着きがないほうなのですが、正直なところ椅子に座っている時間を快適だと感じたことは今まで一度もありませんでした。ですので、私にとって最高の椅子がデザイン設計出来たと自信を持ってお伝え出来ます。Muistaの揺れは穏やかで落ち着いたリズムですので物事に集中するのにも適しています。以前、ADHDの生徒さんがいらっしゃる学習センターでトライアルしたことがあるのですが、見事にこのMuistaの揺れがリラックス効果を引き出し、彼の集中力を高める事に一役買ったんです。あの結果を知った時は本当に嬉しかったですね。
この椅子を大量生産するにあたって品質管理の観点で製造拠点は出来るだけ近場が良かったのでリトアニア国内で探していました。現在はリトアニア国内の4つの都市にまたがって家具製造メーカーと生産を進めています。とは言えリトアニア自体小さな国ですから一番通り場所でも300km程度しか離れていません。
使用しているシートの材料もリトアニア製なのですが、これが本当に品質が高くて驚いていますよ。今は人造皮革(フェイクレザーともいう。海外では菜食主義者向けのヴィーガンレザーとして需要が高まっています)の生地を使ったラインナップの拡充も目指して各署と調整進めているところです。やはりサステナブルへの関心は私たちとしても強く持っていますので、それなりに投資も必要ですので徐々にではありますが確実に移行していくプランを練っているところです。
木製フレームはプレス加工で丈夫な円弧な形に成形しています。しっかりと耐性を強く持たせることで長くご愛用頂けますしね。またシートのクッションは高密度のポリウレタンをインジェクションモールドで成形していますが、これも非常に耐久性があり長持ちする材質になります。Muistaは本当にロングライフのデザインですよ。あとは目立たないですが、同じくポリウレタンで成形された滑り止めもとても重要なパーツの一つです。摩擦を軽減し床やカーペットを保護することはもちろんですが、Muistaの揺れを柔らかく快適にする役目ももっています。
因みにフレームにはこれまで天然オイルでの処理を施していましたが(私自身も今年は約100脚のMuista Chairに塗りました!)どうしても若干黄みがかってしまっていたんです。大半のお客さんはやはりナチュラルな仕上げ(色味)を求められていましたので試行錯誤の結果、自然な白みを損なわずにコーティングが出来る水溶性のラッカーが1つだけ見つかりました。ただどうしても手順が増えてしまうために価格への反映を余儀なくされてしまっていますが、皆さんにはお好きな方を選んでいただけるように2種のオプションをご用意させていただきました。
——製品化までのプロセスの中で、いちばん大切にした部分や特に留意した点などありますでしょうか。
開発の段階で最も時間をかけた部分が2か所あります。どちらも異なる種類のポリウレタンで製造されている、シートのクッションと滑り止めのフットパッドです。どちらも手作業で成形できるものではありませんので、幾度となく金型を製作し、プロトタイプを作る毎日でした。
Muistaはコンセプト時より、前後の揺れ(サドル)と左右の揺れ(ベンチ)の異なる2通りの運動に対応するようにデザインしていましたので、座面の形状にも随分とこだわりましたね。一方を快適にデザインすれば、もう一方に不具合が生じるといった具合です。これは心が挫けそうになりましたね(笑)。
開発途中で、だいたい5〜6回ほどこれだ!という瞬間がありました。ですが数週間後に、やっぱりもっとこうした方が良いのではないかとか、まだまだやるべき仕事が残っていることに気づきました。その度に同僚のVilius Kiškisが熱心に励ましてくれて幾度となく乗り越えることが出来ました。本当に感謝していますよ。現在の形になってから1年以上が経過しましたが、シートの形状を微調整する以外にはこれ以上の改善点はお客さんからもあがってきていません。
——『Muista』において、皆さんにもっとも見て/感じて貰いたい点はなにかありますか?
調査中に平衡感覚について興味深いことがわかりました。普段あまり平衡感覚を使わないと、バランス感覚が徐々にうしなっていってしまうのです。私はこれまでに何百人という人がMuista Chairに座っているシーンを見てきましたは、平衡感覚の違いは明確に出てきます。感覚の弱い人はやたらに端の方に座ったり、両手で椅子に掴まって無理矢理揺らそうとしたり、座り方からして異なるのです。すると彼らはふと立ち上がってこの椅子は私向きではないようだというのです。ですので私は、まさにそれが平衡感覚を失いつつあるサインだと伝えています。Muista Chairを日常的に使用する事で改善されてきます。年配の方々は平衡感覚の欠如や転倒などの軽い怪我から健康悪化が進行します。平衡感覚は改善できるのだという事を皆さん忘れないでください。
私がMuista Chairで気に入っていることの一つに梱包があります。きっと皆さんも気に入ってくれると思いますよ。これは同僚のVainiusが設計してくれたものなのですが、複数の出荷の際にも大変便利なんですよね。まるでテトリスゲームみたいです。
▲ 出荷を待つMuista Chair
——現在展開してる全Collectionの中で個人的に一番推しているカラー・仕様があれば理由と併せて教えて頂いても宜しいですか。
個人的にはall Blackが一番好きですね。フレームの木材と、シートの生地の質感は全く異なるのですが、それらがお互いに補完し合って美しいオブジェクトが生まれます。あとは色味のあるオイルを塗布することが好きなので、LOGAN atelierのお客さんにも例えばインディゴブルーのフレームをもったカスタマイズを提供出来たら良いなと思っています。
——それでは、最後に日本の皆さんになにか一言あればお願いします。
椅子の在り方について問いているのがMuista Chairです。このちょっとした“座”に対する革命へのご参加お待ちしています。Muistaはあなたの行動に報いることが出来ると信じています。
[製品情報]
MuistaとMuista Dの2サイズ。シートはGrey / Black / Blue / Pinkの4色、木製フレームも3色の展開。
Aurimas Lažinskas
プロダクトデザイナー
バルト三国の1つ、リトアニア出身。グラフィックデザインを学んだ後に、書籍のレイアウトデザイナーとして活躍。退職後にアナログ潜望鏡を開発し各種メディアで取り上げられ(日本の雑誌のカバーにも採用)その後プロダクトデザインの道へと進む。
Vainius MarkelisとVilius Kiškisと共に一念発起でスタジオを設立。プロダクトデザイナーとして働く傍らで、現在も一部製造から最終チェックまで自分自身の手で行うことも。
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